2019/08/21

もし、私が白人に生まれてきたとしても「孤独」は消えない、ということが「かっこいい!」というやつの話を聞けば聞くほど実感できてしまった。それは私にとってものすごいショックなこと。

なぜなら、英語がもっと喋れれば自分の孤独が解消されると思っていたから。

 

英語が流暢に喋れたとしても「人種差別的なことがあるから孤独が消えないのか?」と思っていたが、それは違っていた。

 

相手の話を聞く前に、「わからない」と自分の頭の中で一言唱えてから、相手の話に耳を傾けてみると「おー!相手の本音が聞けるようになる、という面白い体験をしていたら「なんだ!白人に生まれ変わったって孤独は変わらないぞ!」ということを発見してしまった。

 

いや、日本にいた時よりももっと強烈な「孤独」。「かっこいい!」というやつの話を聞いていたら、それがリアルに感じられるようになる。まるで、天体望遠鏡で土星を見た時に、真っ暗闇にポツンと星が浮かんでいる、あれを見た時の恐ろしい感じ。

 

でも、日本で感じていた私の孤独と、白人たちの話を聞いていて感じる、ポツンと真っ暗闇に浮かんでいる星のような孤独とは何かがちがう。この白人が感じている孤独と私が感じている孤独を比べたら、まだ私の方がマシかも、と思えてしまったから不思議である。

 

その違いは何か?ということを探求している時間はなくて、そんなことをしている暇があったら宗教心理学の勉強をしろよ!と怒られそうなのだが、気になって仕方がない。

なんだか、嬉しいような、悲しいような複雑な気持ちで、私が抱えてきた孤独はなんだったんだろう?とその答えが早く知りたくて「そうだ!教授に相談しよう!」と思い立つ。

自分一人で考えたって、時間を無駄に過ごすだけだし、今更、図書館にあった新渡戸稲造先生の「武士道」を英語で読んで日本の孤独について研究する時間はない。

 

うーん、誰に相談しようかな?と考えて真っ先に浮かぶのは「サイツ教授」と思ったが、サイツ教授に話をしたら、私の心の闇を引き出されるような感じがして、それもまた面倒くさいな、と失礼なことを思ってしまったが、却下した。

 

日本に宣教師の子供として長年いらっしゃった、宗教学のライトマイヤー教授は日本の文化が大好きで、ものすごく優しい方なので私の話を聞いてくださるが、専門が宗教学なので、罪の観点から孤独を読み解かれるような気がして「うーん、ちょっと避けようかな」と考える。

 

おー!社会心理学者のモルトン教授がいた!と思い出す。社会心理学だから、アメリカの社会と日本の社会の違いから、何か教授にヒントをもらえるかもしれない、とワクワクしてくる。

モルトン教授は、私が一番初めに心理学の授業を受けた時に200人の心理学部生は卒業時には10人まで減る、と予言した人だった。そして、教授の予測通りに、現在の心理学部生は8人まで減っていた。

 

モルトン教授の解釈心理学というわけのわからない授業を取った時に、本を10冊読んでレポートを書いたらAの成績をやる、と面白いルールを提示してくれた教授。9冊だったらBで8冊だったらCという厳しい感じ。

私は、連日のレポートの嵐と小テストの集中攻撃で精神的に参っていて、そんな時に車で事故を起こしてしまった。事故直後でもモルトン教授のレポートを書き続けて、包帯を頭に巻きながら「モルトン教授!私は9冊読んでレポートを書き終えたのでBでいいです!」と限界まで振り絞って書いたレポートを教授の前に提出した。

 

すると、モルトン教授が私の提出したレポートをペラペラめくって、さっと流し読みした後に「大嶋さん、あなたはAを取りなさい!」とおっしゃった。

 

「いや、モルトン教授、無理です!」と私は包帯で巻かれた頭を指差した。

 

モルトン教授は年季の入った舞台役者のような顔をしていて、ちょっと掠れた声で「いいや、大嶋さん、あなたはAを取りなさい」とおっしゃって、立ち上がり、一冊の薄っぺらい本を渡してくださった。

 

一瞬「え?こんなに薄い本だったら読めるかも?」と誘惑に負けそうになったが、これから待ち構えているたくさんの課題のことを考えてみたら「いや、今立っているだけで頭がフラフラするんですから無理」と思って、その本を教授に返そうとした。

 

でも、モルトン教授は「あなたはその本を読んでAを取りなさい」ともう一度おっしゃったので、その本のタイトルを見た。

 

するとタイトルには「Your God is too small(あなたの神は小さすぎる)」と書いてあって、そのタイトルを見た瞬間に私の目から涙がバーっと流れてきてしまった。

 

そんなことがあったモルトン教授のところに質問をしに行くのはちょっと恥ずかしかったが、教授の部屋のドアをノックする。

 

教授は「大嶋さん、今日はどんな用事でいらっしゃいましたか?」と私を部屋に招き入れてくださった。

 

私は、教授に「わからない」ということを念頭に人の話を聞くようになったら、羨ましかった白人の人たちの孤独に触れることができた、という話をし始めた。

するとモルトン教授が「大嶋さん、これって他の授業の研究課題なのか?」と聞いてこられたのは、もしそうだったら、他の担当教授の邪魔をしたくなかったから。教授は心理学部の学部長だったのでそういうところは厳しかった。

 

私は、孤独に気がついてしまったから、気になって仕方がなくなって、このように教授に質問をしにきた、と伝えたところ「無駄なことをしない効率重視の大嶋さんが珍しいですね」と笑われてしまった。

 

私は、自分が日本で体験してきたいじめなどから感じるようになった孤独について話をして「モルトン教授、何が違うかわかりますか?」と尋ねてみた。私の頭の中では、モルトン教授が「私は日本文化のことに詳しくないからよくわからないな」という答えが返ってくることを予測していた。

 

そして、しばらくモルトン教授は椅子に深く腰掛けて顎に手を当てて、目を閉じて考えていて「私は日本の文化のことは詳しくないが、」と切り出して「お!私が思ったことが当たっていたかも!」とちょっと嬉しくなった。

 

でも、モルトン教授は、その後に「君を日本人のサンプルとしてこれまで観察をしてきて、そして、君の体験を今一通り聞いて何が違うのか?ということを私なりにまとめてみたよ!」とおっしゃった。

 

モルトン教授は「大嶋さん」とあなたのことを呼ぶのは、あなたが私のことを「モルトン教授」とちゃんとリスペクトして呼んでくれるからさ、と始まった。他の心理学部の生徒たちは「ジャック」とファーストネームで教授のことを読んでいて、私はそれを横で聞いていて「ヒェー、私には、そんな恐ろしいことはできない!」と思っていた。

 

そして、モルトン教授のクラスでの私の言動を見ていて「常に周りの生徒に気遣いをしていて、グループを大切にするところがあると見ていた」と言われて「へー、そんな風に見てくださっていたんだ」とびっくりする。

 

教授は「最近の私の応用心理学では、日本で感じたような孤独は感じなかっただろう?」と聞かれて、私は「はい」とうなづく。そして「でも、あんなにたくさん人がいた一番最初の基礎心理学の授業では、もしかしたら日本で感じたような孤独を感じなかったか?」と聞かれて、私はしばらく振り返ってみて「あ!確かにあの時、日本で感じていた惨めさを感じたかも!」ということを思い出した。

 

あの時に、どんどんみんなが授業についていけなくなって落ちていく中で、英語がほとんど喋れないあなたが授業に通い続けていたのを他の生徒たちが嫉妬していた、というのを私は目撃していた、とモルトン教授はまるで舞台役者が華麗に演技をするようにおっしゃった。

 

モルトン教授は「端的に私なりの意見をまとめよう!」とおっしゃった。

あなたと他の白人の生徒を見ていての違いは「リスペクト(尊敬心)」である。あなたが日本のサンプルになるわけではないが、もし、あなたが日本人のサンプルだとすると、日本の文化には尊敬というものがあって、そこがあなたが感じた「白人の孤独」とは大きく違っているわけだ。

 

でも、あなたは日本ではアメリカと違った「孤独」を感じて、それがあの基礎心理学の授業の時に感じたものだったら、あなたが「孤独」と感じたものはおそらく「嫉妬」からきているものだろう。

要するに日本の文化の背景に流れているかもしれない「リスペクト」の裏側には「ディスリスペクト(無礼なことを言う、蔑む、軽んじる」が存在している。心理学部を落ちていった連中は、君の「リスペクト」が有り余って嫉妬に転じたことで、「ディスリスペクト」の態度をとっていたことが考えられるから、大嶋さんが日本で感じていた孤独って「嫉妬」のことを指している可能性を私だったら疑う。

 

そして、教授は「フー」と大きくため息をつかれた。

 

そんな教授の姿を見て私は、ここで「私は嫉妬されるものが何もありません」とカマトトぶるのを止めることにして「本音モード」と頭の中で唱えていた。

 

私の本音は「モルトン教授、ありがとうございました、私の中で全てが腑に落ちました!」と言って、モルトン教授に握手を求めていた。それがこの国では、日本の深々としたお辞儀と同じ意図であって、教授が私にしてくださったことへの最大の感謝の印だった。

 

(つづく)

 

8月25日の朝日カルチャーセンター福岡教室のたくさんの申し込みをありがとうございます。

すぐに満席になってしまって、申し込めなかった方がたくさんいらっしゃったみたいですみませんでした。

 

いつも応援してくださってありがとうございます。

 

大嶋 信頼

 

 

 



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